

はじまり ── 2012〜2013年
2012年当時、飯田は日本の大手ピアノメーカーの技術者養成機関に在籍し、ピアノ構造や調整技術を学んでいました。その傍ら、1970〜80年代の国産ヴィンテージ・ヘッドホンに魅せられ、構造解析と試作を始めます。
最初の試作品は、9cmのスピーカー用パルプコーンユニットに手で曲げた金属片のバンド、木製ハウジングと共鳴板というDIY的な構成でした。洗練には遠いものでしたが、「木材を活かした構造」と「楽器的な響き」という核がここにありました。


ブランド誕生と開発の試行錯誤(2013)
2013年、飯田は初のプロトタイプを基に、実用に耐えるヘッドホンの開発に着手しました。
大きな壁となったのは、ドライバーやイヤーパッドなど の中核部品。個人での製作が難しく、高い精度と音響性能を求めるため、外部の専門工場との連携が不可欠でした。
こうした課題に取り組む中で、製造調整を担うパートナーとして飯倉が加わり、飯田とのタッグによりブランドとしての体制が整います。ふたりの姓を組み合わせ、「KuraDa」というブランド名が誕生しました。
北海道では、伝統的にピアノ響板に使われるエゾマツ材を二枚貼り合わせた積層プレートを地元企業に製作依頼。ハウジングは金属加工機を用いた高精度な切削で成形され、仕上げには専門塗装工場によるポリエステル塗装を採用。飯田が思い描いていた“音も造形も楽器のようなヘッドホン”の姿が、ようやく現実のものとなり始めていました。


初の公開とP-10への反響(2013年末)
2013年後半、KuraDaはプロトタイプ「P-10」を展示会で初公開しました。
これまでWebなどを通じて一切情報発信を行っていなかったKuraDaにとって、ブランドとしての初の対外的な発表となりました。
来場者からは、木材を活かした独創的な構造と響きに対する驚きの声が寄せられる一方、「洗練に欠ける」との厳しい指摘もありました。しかし、この反応こそが次なる製品設計の指針となり、ブランドの方向性を再確認する貴重なきっかけとなったのです。


市場導入とKD-FP10の誕生(2014)
P-10では、他社製の保守部品を流用したヘッドバンドを使っていましたが、寸法が合わず装着感に問題がありました。この経験から、KuraDaはバンド構造を含めたすべてのパーツを自社設計・製造する方針へと転換します。
側圧や装着バランスを音響設計の一部として捉え直し、完全新設計のセカンド・プロトタイプ「FP10」が完成。さらに内部形状の最適化や仕上げ品質の向上を経て、2014年秋のヘッドホン祭にて、初の市販モデル「KD-FP10」が正式に発表されました。


設計の交差点──木と金属、ふたつの設計思想(2014〜2015年)
FP10発表後、KuraDaは複数のプロジェクトを並行して進めます。
ひとつは音響楽器のような響きを目指した木製構造モデル「KD-C10」、もうひとつは、顧客の依頼をきっかけに開発が始まった金属ハウジングの開放型プロトタイプ「KD-OR12」です。
C10では、異なる木材を組み合わせて共鳴を制御。OR12では、バンドアームに続きハウジングにも金属を採用し、剛性と開放感を両立。さらにこの時期には、C10の構造をベースに、金属ハウジングかつ背面開放とした試作機も密かに制作されました。これは後のKD-Q1に直結する設計思想の原型となります。


部品への眼差し──ウッドフレーム・ドライバー
KuraDaは、ドライバーフレームを木材で作るという前例の少ない試みに挑みました。寸法精度が求められる部品に温湿度で動く木材を用いるには、楽器づくりの経験と素材への深い理解が必要でした。
この実験は、単なる素材変更ではなく、「音がどう変わるのか」を部品単位で見つめ直す設計思想そのものでした。量産は困難でしたが、ごく少数が高額なカスタムモデルとして実際に製品化され、今も音を奏で続けています。
木材の限界に向き合いながら、その可能性を信じていたKuraDaらしい挑戦でした。


KD-P1──設計の統合と象徴的製品の誕生(2015年)
OR12で得られた知見をもとに、量産性を意識して再構築されたのがKD-P1です。
フレームはA7075(超々ジュラルミン)による削り出し構造で設計され、スピーカーのような開放感と重厚な外観が両立されました。
その外観と音の印象から、「KuraDaといえばP1」と語られるほど、今もブランドを象徴するアイコニックなモデルとなっています。


次なる進化──KD-Q1と3Dプリント技術の導入(2024年~)
KuraDaは2017年、KD-Q1の基本設計をほぼ完成させていました。この設計は、C10金属ハウジング背面開放モデルの流れを受け継ぎ、3Dプリントによる量産を前提としたも のでした。
採用したのは、HP社のMulti Jet Fusion(MJF)方式。複雑な形状と高剛性・軽量性を両立できる製法でしたが、当時の国内では少量対応できる製造業者がなく、実用化までには時間がかかりました。
数年の準備を経て、ようやく量産体制が整い、2024年、KuraDa初の本格的量産モデルとしてKD-Q1が正式にリリースされました。

Our History
プロトタイプから今日に至るまでのKuraDaの歩みを形作ったマイルストーンをご覧ください。